ボクノコト:役立たずで古いというだけで解体して更地にという思考への異議申し立て者

金森木工所



町内の裏通りの西側に向いて木工所はある。昔からこの場所で盛衰を乗り越えて主は95歳まで現役で仕事を続け101歳で亡くなったのだ。僕は、いつも通りから見えるこの木工所の素敵な外観が気になっていたのだけれど、最近になってこの国の行政はトニカクなんでも古いものは役に立たないものはご意見無用で壊してしまうのだということを身に染みて感じることになったので、ナントカして記録だけは残しておきたいと思い外観写真を撮ってはいたのだけれど、どうしても作業場内部を観てみたいと思い立ち、思い切って88歳になるお婆ちゃんに話をして作業場に入れていただいたのだった。
作業場に足を踏み入れた僕は瞬間的に何ものかを感じてしまってその場に立ち尽くして暫く動くことができずに、カメラを片手にぶら下げたまま内部空間を眺めるばかりだった。
徐々に建物の構造が見えてきて、作業場の状況をも見えるにしたがって僕は更にこれは凄いところにきてしまったなと思った。聞くとこの建物が建てられたのは昭和30年ごろで、それも元は福島県白河市にあった小学校の講堂を解体して移築したのだという。なるほど道理で外観の意匠が単なる木工所と違って魅力的なのだなということに気づいたのだった。
作業場は、まるでついさっきまで主が作業をしていたままの状態で凍結してしまったかのように次の工程を待っている黒檀の材や製材を待っている原木や乾燥中の板が整然と並んでいて、作業台の上には工程ごとの道具がこれまた実に整然としていて主が製作した治具と共にシンとしてそこに在るのだった。
大型の電動機械やそれぞれの道具は、シンとしているのに煩く僕に話しかけてくるので、それはまるで図書館の本が一斉に何事かを同時に語り始めたようなカンカクなのだった。
もはやその時には、これは画像で保存ではいけない。現物をこのまままったくなにも動かすことなく積もっている埃すらそのままに残しておかなければいけないと心に決めたのだった。

0 件のコメント:

コメントを投稿

つぶやき・・・は、こちら